近年の日本では、さまざまなコスト上昇と人手不足が大きな問題となっています。実に多くの企業がその影響を受けているところですが、病院も例外ではありません。なかでも、入院患者に毎日の食事を提供する給食現場では、食材や光熱費などのコスト上昇と深刻な人手不足に関して的確な対策が求められています。
クックチルとニュークックチルは、そんな病院の給食現場で導入が増えている調理システムです。本記事では、この二つの調理システムについて詳しく取り上げます。クックチルとニュークックチルの違い、給食現場で導入が進んでいる背景などを詳しく解説。導入にあたってのメリットやデメリットもまとめてお伝えします。
クックチルとニュークックチルに興味のある方、導入をお考えの方はぜひ最後までお読みいただき、ご参考になさってください。
目次
クックチル、ニュークックチルの違いは?
コスト上昇や人手不足に悩む病院の給食現場で重宝される調理システム、クックチルとニュークックチル。最初に、この二つの共通点や相違点を確認しておきましょう。
クックチルとニュークックチルの【共通点】
クックチルとニュークックチルの工程は「事前調理」と「急速冷却」、「チルド保存」の3点が共通しています。あらかじめ食材を調理して急速冷却。できあがった料理は、食中毒などを引き起こす菌が繁殖しにくい0〜3℃のチルド状態で保存します。ちなみに、保存期間は最長で製造から5日間ほどとなっています。
空き時間を活用できる事前調理によって業務全体が効率化されるのはもちろん、チルド保存することで衛生面の安全性も向上。調理工程がしっかりとマニュアル化されるため、給食の品質が安定するのも特長といえるでしょう。
クックチルとニュークックチルの【相違点】
クックチルとニュークックチルの大きな違いは「盛り付け」と「提供時のオペレーション」にあります。クックチルはできあがった料理をそのままチルド保存し、提供直前に再加熱してから盛り付け。一方、ニュークックチルはできあがった料理を一人前ずつ盛り付けてからチルド保存し、食器ごと再加熱してから提供します。
このような違いがあるため、クックチルの場合は盛り付けの際に作業時間とスタッフの確保が必要です。その点、ニュークックチルは配膳時刻に合わせてスピーディーに提供可能。大量の給食を提供しなくてはならない現場でも、最小限のスタッフ数で対応しやすくなります。
病院でクックチル・ニュークックチルの利用が増えている背景
なぜ、病院の給食現場でクックチルやニュークックチルが重宝されているのでしょうか?その背景について、詳しくみていきます。
慢性的な人手不足である
各種メディアでも取り上げられていますが、日本の人口は年々減少しており、少子高齢化が急速に進んでいます。それに伴って、社会全体の労働力も減少。給食現場では管理栄養士や調理師などをはじめとするスタッフが十分に確保できず、人手不足が続いています。
また、本来であれば、これからの現場を担う若手スタッフを採用して育てなくてはなりません。現在働いているスタッフに若手が少ない場合も、将来的に人材不足となり業務が回らなくなる不安が残っていると考えられます。
労働環境が厳しく長続きしない
現実的にみて、給食現場の労働環境はなかなか厳しいものです。終始エアコンの効いた部屋で業務を行うわけではありません。衛生管理を徹底するのはもちろん、暑くてもガスコンロを使ったり、寒くても冷蔵品や冷凍品を扱ったりすることが多く、少なからず体に負担がかかるでしょう。
さらに、病院では朝・昼・夕と1日3回の給食を提供する必要があります。仕込みと片付けの時間があるため、早朝や深夜の勤務も必須。こうした過酷な労働環境が原因となり、短期で辞めてしまう人が多い現場もあるのです。
給食委託費が上がっている
病院の給食業務では、委託によって人材不足などを補うという選択肢があります。しかし、給食専門の企業もコスト上昇や人手不足の影響を受け、やむを得ず委託費を上げている場合があるのです。
当然ながら、病院と委託先の双方が納得した条件でないと契約には至りません。委託で折り合いをつけるのが難しくなっている現実もまた、頭を悩ませる問題になります。
病院でクックチルやニュークックチルの導入が増えるのは、上記で述べたような背景が関係していると思われます。この点を踏まえつつ、給食現場にとってのメリット・デメリットもお伝えしましょう。
病院給食でクックチル・ニュークックチルを使うメリット
では、病院の給食現場にクックチルやニュークックチルを導入した場合、どのようなメリットがあるのでしょうか?
メリット①人手不足の現場でも活用できる
先に述べているように、病院の給食現場は人手不足の傾向にあります。しかし、クックチルやニュークックチルなら事前調理で時間を有効的に使ったり、提供時に稼働するスタッフを減らしたりすることが可能。つまり、人手不足の現場でも業務の効率化が実現できるのです。
メリット②コスト削減につながる
クックチルやニュークックチルの導入で稼働するスタッフを減らすことができれば、人件費の削減につながります。また、食材のロスをなくす効果にも期待大。人件費や食材費といったコストをできるだけ抑え、より良い運営体制のために役立ちます。
メリット③品質が安定し満足度が上がる
最初の項目でクックチルとニュークックチルは品質が安定するとお伝えしましたが、これも大きなメリットをもたらします。たとえば病院なら、食事の提供先は主に入院患者です。療養中の楽しみともいえる食事がいつもおいしいものであれば、入院生活の満足度もぐんと上がるでしょう。病院のホスピタリティも自然と高まります。
病院給食でクックチル・ニュークックチルを使うデメリット
クックチルやニュークックチルにはメリットだけでなく、デメリットもあります。こちらも詳しくご説明しましょう。
デメリット①保存スペースを確保しなくてはならない
クックチルとニュークックチルの基本工程といえば、料理をチルド状態で保存することです。病院の給食現場は、ほとんどの場合、スペースが限られているでしょう。そのため、どちらのシステムにしてもチルド保存のためのスペースが確保できるかどうかが問題になることもあります。病院の規模によっては、対応が難しいかもしれません。
デメリット②専用機器が必要になる
デメリット①に付随する内容ですが、クックチルとニュークックチルを導入するには急速冷却やチルド保存、再加熱をするための専用機器が必要です。もともと所有している厨房機器が使えるということもあるかもしれませんが、新しく買いそろえるには当然コストがかかってしまいます。
デメリット③再加熱に向かない料理には対応しにくい
実は、再加熱してもおいしく食べられる料理は限られています。たとえば、再加熱すると食感などが変わりやすい揚げ物や炒め物は、クックチルやニュークックチルでの提供には向いていません。そのため、給食のメニューが偏ってしまう可能性もあります。
これからの時代に合った病院給食とは
これからの時代はコスト上昇や人手不足などが続き、問題そのものはすぐ解決には至らないかもしれません。しかし、病院の給食現場は、クックチルやニュークックチルの活用で状況を改善できる可能性があるのです。導入にはデメリットを上回るメリットがあるといえるのではないでしょうか。
ナリコマグループではクックチルとニュークックチルを活用した献立サービスを展開しています。現場のニーズに合わせてご提案いたしますので、ぜひご検討ください。
クックチル活用の
「直営支援型」は
ナリコマに相談を!
急な給食委託会社の撤退を受け、さまざまな選択肢に悩む施設が増えています。人材不足や人件費の高騰といった社会課題があるなかで、すべてを委託会社に丸投げするにはリスクがあります。今後、コストを抑えつつ理想の厨房を運営していくために、クックチルを活用した「直営支援型」への切り替えを選択する施設が増加していくことでしょう。
「直営支援型について詳しく知りたい」「給食委託会社の撤退で悩んでいる」「ナリコマのサービスについて知りたい」という方はぜひご相談ください。
こちらもおすすめ
クックチルに関する記事一覧
-
医療・介護施設のBCP策定ガイド!安心安全な施設運営のために
地震や台風などの自然災害は、いつどこで発生するかわかりません。特に、医療や介護を支える病院や施設においては、災害が発生してもその役割を止めることなく継続する必要があります。
停電や断水、物流の停止などによって、通常の施設運営が困難になるケースも少なくありません。こうした緊急時に備えるために欠かせないのがBCP(事業継続計画)です。BCPとは、災害や緊急事態が発生した場合でも、業務を継続・早期復旧させるための計画で、特に命を預かる医療・介護施設にとってBCPの策定はとても重要になってきます。
今回は、災害時における医療・介護施設が直面する課題や対策方法などについて詳しく解説していきます。いざという時に備え、今からできる準備を一緒に考えていきましょう。
-
病院給食が約25年ぶりに値上げ!費用算出方法や物価高騰への対策を解説
病院給食は、その名の通り、主に入院患者さんに提供されています。価格は長らく据え置かれてきましたが、2024年6月1日に値上げが行われたことで注目を集めました。今回の記事は、この「病院給食の値上げ」をテーマにお届けします。
病院における給食の重要性や、値上げに至った背景などを詳しく解説。近年さまざまなところで影響を及ぼしている物価高騰への対策についてもまとめてみました。ぜひ最後までお読みください。
-
給食業界における最大の課題!コスト高騰化を乗り切る解決策とは
近年は数多くの商品やサービスの値上げラッシュが続いており、多種多様な業界はもちろん、消費者にも大きな影響を及ぼしています。食品や日用品の買い出しで「高くなった」と実感している方は少なくないでしょう。値上げの主な理由は、生産費や人件費といった各種コストの高騰化。この件は、給食業界においても最大の課題として解決が求められています。
本記事では、今や身近なテーマともいえるコスト高騰化について解説。詳しい要因を見ながら、給食を必要としている施設の現状や具体的な解決策などをお伝えしていきます。ぜひ最後までお読みください。
人材不足に関する記事一覧
-
病院給食の人手不足と解決方法
人手不足に加えて、給食に関わるコストの上昇は、病院給食部門にとって大きな課題とされています。多くの病院で赤字となっている給食部門を救うためには、クックチルシステムを扱う院外調理業者への委託も一つの手です。
今回は、病院給食が抱える実態とその解決方法について解説していきます。 -
病院の管理栄養士はなぜ大変?働き方は改善できる?
たくさんの患者さんが入院している病院にとって、毎日の給食を提供することはとても重要な業務の一つです。療養のために入院している患者さんは、きちんと栄養をとったり、エネルギーを補ったりする必要があるでしょう。また、入院設備がない病院でも、健康維持のための食生活について患者さんに指導する機会があります。
今回の記事は、そんな病院で働く管理栄養士の実態に迫ります。「大変」「つらい」といったイメージが強い病院管理栄養士の主な仕事内容をお伝えし、向いている人の特徴なども併せて解説。近年さまざまな業界において課題となっている、働き方の改善ポイントについても触れていきます。ぜひ最後までお読みください。 -
給食業界の現状!早期改善が求められる課題3つ
給食は保育所や学校、病院、介護・福祉施設、社員食堂など、いろいろな場所で人々のお腹を満たし、健康を支えています。しかし、その給食を提供する側に目を向けると、いくつかの課題が浮き彫りに。近年、給食業界は厳しい状況にあると指摘されており、早めの対策が必要といわれているのです。
本記事では、給食業界が抱える複数の課題から、特に重視すべき3つをピックアップ。課題の内容とともに、その要因や改善のポイントも詳しくお伝えします。