ニュークックチルは、クックチルの長所をそのまま引き継ぎつつも「再加熱後の盛り付けに時間がかかる」というクックチルの短所を克服した新しい調理方式です。
セントラルキッチンで製造されたチルド商品を納入し、チルド状態の料理を専用の加熱機器で器ごと再加熱します。少人数かつ短時間で適温のお食事を提供できることが、大きな特徴です。調理工程を省略化しながら衛生管理を徹底できることから、病院や福祉施設、学校といった大量調理が必要な現場に取り入れられています。
本記事の序章では、ニュークックチルの概要を紹介します。次に、施設がニュークックチルを導入することのメリットおよびデメリットを解説。最後にニュークックチルを導入した福祉施設の成功事例を紹介します。最後までご覧いただければ、自社施設にニュークックチルを導入するかどうかの判断が可能になります。ぜひ最後までご覧ください。
ニュークックチル方式には、通常ではチルド商品を製造するために食品を急速冷却する冷却機器と再加熱機器が必要です。しかし、セントラルキッチンから納入される商品は、すでに急速冷却が完了した完調品になるため、厨房には再加熱機器が設置されていれば問題ありません。
セントラルキッチンで調理された食品は、調理終了後30分以内に冷却を開始し、90分以内に中心温度が3℃以下になるように冷却されます。細菌が発生しやすい10℃から45℃の温度帯を短時間で通過させているため、衛生リスクを徹底して排除していることがポイントです。
提供する際は、チルド状態の食品を器に盛り付けてから、専用の加熱機器で再加熱。加熱機器は、食事を提供する時間に合わせて自動で再加熱を行います。再加熱後は、加熱したての温かいお食事を運ぶだけになります。
ニュークックチル方式は、セントラルキッチンから納入された商品を、チルド状態で専用食器に盛り付けし専用の加熱機器にセットします。設定された食事提供時間に合わせて自動的に機器が作動し、器ごと商品が再加熱されそのまま提供ができます。
再加熱機器は2種類。「再加熱カート」と「リヒート」です。
再加熱カートには、庫内に温スぺースと冷スペースという用途の異なるスペースが2つ設けられており、お味噌汁とサラダなど、温かい食事と冷たい食事をひとつのトレイに設置することが可能です。
リヒートは、据え置き式の加熱機器です。冷スペースがない分サイズはコンパクトで、再加熱カートより安価な値段が特徴となります。
再加熱カートとリヒートの主な違いをまとめました。
再加熱カート | リヒート | |
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カートの移動 | キャスターがついているため可 ※配膳車としても使用可能 |
据え置き式のため不可 |
サイズの比較 | ステーションやカートが付属するためサイズは大きめ 一定のスペースが必要 |
サイズを選べる 収納数の少ないコンパクトサイズあり |
冷スペースの有無 | 冷スペース有り フルーツやサラダ・酢の物・和え物・漬物などのセットが可能 |
冷スペース無し 冷たい食品は別専用の冷蔵庫に保管。提供前にトレイメイクを行う |
価格の比較 | 高い | 安い |
ちなみに、再加熱カートには、熱風加熱式と過熱蒸気式、IH・EH加熱式、マイクロ波式と、それぞれ加熱方式の違うカートが揃っています。各カートのメリットとデメリットを把握すれば、厨房に合った加熱機器を選択できるでしょう。
「セントラルキッチンから納入された商品を再加熱してから提供する」という流れは、クックチル方式もニュークックチル方式も同じですが、クックチル方式には「食数に応じて、盛り付けに要する時間を想定した上で商品の再加熱を終了させる必要があり、かつ衛生面の観点から前倒しでの作業を行うことができない」というデメリットがあります。
クックチル方式では、チルド商品の再加熱後に盛り付け作業が必要です。食事提供ごとに盛り付けのための調理員の配置も必須で、食数が多ければ多いほど必要な人員も増えていきます。盛り付けに時間が取られることで、提供する頃にはお食事が冷めてしまっているというケースも少なくありません。
一方のニュークックチル方式はチルド状態で専用食器に盛り付けた食事を器ごと再加熱する仕組みのため、前倒しで食事提供の準備を行う人員配置が可能となり、出来たての味をご利用者に毎食提供できます。
ニュークックチル方式のメリットをより詳しく知るために、調理方式のそれぞれの提供方法やメリットデメリットを確認しておきましょう。
調理方式 | 提供方法の特徴 | メリット | デメリット |
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クックサーブ | 当日調理・当日提供 |
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クックフリーズ | -18℃以下で冷凍保存してあった食品を再加熱して提供 |
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クックチル | 3℃以下で冷却保存してあった食品を再加熱して提供 |
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ニュークックチル | 3℃以下で冷却保存してあった食品を器ごと再加熱して提供 |
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ちなみに、再加熱カートには、熱風加熱式と過熱蒸気式、IH・EH加熱式、マイクロ波式と、それぞれ加熱方式の違うカートが揃っています。各カートのメリットとデメリットを把握すれば、厨房に合った加熱機器を選択できるでしょう。
ニュークックチル方式は、以下の流れで調理が進みます。
それぞれの流れの特徴を確認しましょう。
セントラルキッチンでは、徹底した衛生管理のもとクックチル製品を製造しています。ニュークックチル方式では、セントラルキッチンから納入された商品を使用します。
チルド状態の商品を器に盛り付け、再加熱カートもしくはリヒートに差し込みを行います。再加熱カートでは、トレイへの組み膳まで行ってからの差し込みが可能です。リヒートでは、冷たいまま提供したい食品は別の冷蔵庫へ保管しておきます。
タイマーの時間に合わせて、自動で再加熱がスタート。再加熱終了後、自動で保温されるため、冷める心配もありません。再加熱が終了したら、手早く食品の中心温度を測定します。測定終了後、蒸らし作業が始まり余熱が庫内に行き渡ります。
再加熱カートを利用している場合は、再加熱が終了してすぐの配膳が可能です。
夕食の食器洗浄を翌日朝以降に行う場合は、こびりつきを防ぐためにつけ置きを行います。
クックチル方式は再加熱後に盛り付けを行うため、どうしてもトングや菜箸による盛り付けが必要です。しかし盛り付け途中に型崩れが起きてしまうほか、調理員が火傷をしてしまうといったリスクがありました
チルド状態の食品を扱うニュークックチル方式では、衛生手袋を使用して直接器に盛り付けることができます。器に盛りつけた後に、再加熱カートもしくはリヒートに差し込みを行い再加熱。調理員が火傷をする心配もなく、食品の形状を保ったまま効率的に作業を進めることが可能です。
チルド状態の食品を再加熱してから、器にひとつずつ盛り付けを行う方式がクックチル方式ですが、一方のニュークックチル方式は、食品をチルド状態で盛り付け、器ごと再加熱を行います。再加熱後に盛り付けを行う必要がなく、前倒しでの食事準備が可能となります。
再加熱カートを使用する場合、トレイメイクが完了したトレイごと食品を再加熱できる点も、ニュークックチル方式の大きな魅力です。温スペースと冷スペースがあるため、温かい食事と冷たい食事を一緒のカートに収納可能。食品のほかに箸やスプーン、食札まで配置できます。誤配を防ぐための食札配置を事前に行えるため、作業時間の短縮や調理員の負担軽減につながります。
再加熱カートとリヒートのどちらを利用した場合でも、「調理終了後から2時間以内に喫食することが望ましい」という大量調理施設衛生管理マニュアルに対応可能です。食品の配置からトレイメイクまで可能な再加熱カートはもちろん、リヒートも再加熱後にトレイメイクを行えば温かい状態で食事提供ができるため、クックチル方式のように忙しい時間帯を作らず、平準化された作業内容で食事提供が実現できます。
再加熱カートにはキャスターがついているため、食品をカート内で保温したままの移動が可能です。4輪すべてに自在輪を設置してある再加熱カートや、本体の軽量化を行っている再加熱カートもあります。ほとんどのカートには、牽引ハンドルがついており、小柄な方でも無理なく運搬ができるように設計されています。規模の大きい病院や福祉施設において、ご利用者が待つ各フロアまで温かいまま食事を運ぶことが可能です。
ニュークックチル方式なら、厨房にかかる負担を大幅に軽減できます。その理由は4つです。
1つ目は、再加熱前の盛り付けや再加熱後の配膳に、調理師免許がないスタッフも取り組めること。再加熱カートや配膳車にお食事をのせて運べば、各フロアにいる調理員以外のスタッフも配膳作業に取り組むことができるため、従来の調理方式の課題であった「食事提供時間に作業量が集中し、忙しい時間帯が出来てしまう」という問題を解決し、朝と夕方の厨房無人化を可能にします。
2つ目は、早出や遅出といった負担のかかるシフトを削減できることです。早出や遅出がなくなれば、家庭の事情や体力的な問題でこれまでフルタイム労働が難しかった方も無理なく働くことができるでしょう。その結果、シフトの調整がしやすくなり、決まった時間に働きたいパートの方を受け入れる余裕が生まれます。
3つ目は、人件費の削減です。一度の食事で何百食も提供するような病院や介護施設では、それだけ調理員が必要です。もしもニュークックチル方式による厨房の少人数化が進めば、早朝勤務がなくなり早番手当も不要になるでしょう。さらに、調理師免許のないパートの方も雇用できるため、結果的に人件費の削減につながります。
最後の理由は、労働環境の改善です。調理員は、体力的負担の大きい厨房業務を行いながら誤配にも気をつけています。「負担が大きくて続けられない、業務内容が複雑で覚えられない」といった職員がいつ出てくるとも限りません。もしも退職につながれば、新たに人員を確保するためのコストが発生するうえに、さらに残った調理員へ負担がかかってしまいます。
ニュークックチル方式を導入すれば、調理師・栄養士以外の方やパートの方のマンパワーが期待でき、体力的負担の大きい業務の削減により調理員にとって働きやすい環境が形成されます。その結果、調理員ひとりひとりが作業に集中できるようになり、持続可能な厨房運営につながるのです。
設置にかかった初期コストは、ニュークックチル導入による少人数化によって、十分に償却できます。
実際に特別養護老人ホームにニュークックチルを導入した事例では、1日に51.5時間あった労働時間を、30.5時間まで減少することに成功しました。1日あたり21時間の節約になります。
仮に時給1,000円の人件費がかかっていると考えた場合、どのくらいのコスト削減につながるか計算してみましょう。
期間 | 削減可能なコスト |
---|---|
1日あたり | 21,000円 |
1ヶ月(30日間) | 63万円 |
1年間 | 756万円 |
他にも水道光熱費も節約することができます。ニュークックチル方式導入の際には専用の設備を導入しなくてはいけませんが、適切な運用を継続すれば、そういった初期コストは十分に償却可能です。
セントラルキッチンで製造された調理済み食品を、チルド状態のまま前倒しで盛り付け保管できるニュークックチル方式は、病院や介護施設における厨房運営を持続可能にするために構築されたシステムといっても過言ではありません。
そしてニュークックチル方式は、従来のクックサーブ方式やクックチル方式のように、提供時間から逆算して作業工程を組む必要もありません。前倒しで盛り付けの作業を行い、加熱機器に食事を差し込んでおけば、決まった時間にお食事を提供することができます。
たとえば、熱風加熱式の加熱機器を使用する場合にかかる時間は、機器へのセッティングが完了してから再加熱が終了するまでの70~90分ほどになります。提供するまでのこの再加熱の時間帯に、次の食事を前倒しで準備する作業に取り掛かることが可能です。
たとえ食数が多い厨房においても、忙しい時間帯がないシフト作成が可能となり、スムーズな運用が実現できるでしょう。チルド状態での盛り付け後速やかに加熱機器に食事をセットすることで、盛り付け終了後は安全な温度帯での冷蔵保管がなされます。再加熱された後は食品に触れることは一切なく、適温の状態でご利用者へ安全なお食事をお届けすることができる、衛生面においても非常に優れた方式と言えます。
病院や介護施設で過ごす方の中には、「食事が毎日の楽しみだ」と話される方も多くいらっしゃいます。
「今日の献立は何だろう」「今度の行事食が楽しみだな」といったワクワク感は、生きる活力にもなります。提供している料理の種類が多ければ多いほど、その期待も高まっていくのではないでしょうか。和食や洋食、郷土料理といったバラエティ豊かなメニューを提供できれば、病院や介護施設などのご利用者にとっての食事が、「食べなければいけないもの」ではなく、「楽しみながら食べるもの」に変化するはずです。
治療食や介護食、嚥下食を含め、様々な調理過程を踏んで製造された多種多彩な商品に対しても、ニュークックチル方式はご利用者にとって、最も美味しい適温の状態での食事提供を可能にします。
温かい食品は温かく、冷たい食品は冷たいままで提供できる点もニュークックチル方式の特徴になります。チルド状態で食品を盛り付けて冷蔵保管された後に再加熱がなされ、加熱したての状態で提供するため、先ほども挙げた『2時間以内の喫食』にも対応可能。食の安全や安心も実現しています。まさに「安全・安心・おいしい」の3拍子揃ったお食事を提供できます。
食事を介助する側が、気持ちよく介助できる点もニュークックチルの見逃せないポイントです。従来の調理方式では、調理や盛り付けに多大な時間がかかった結果、お味噌汁や料理が冷めてしまい、苦情につながるケースも少なくありません。食事介助する介護士からの「温かい食事を提供できないことに申し訳なさを感じる」という声も存在します。
ニュークックチル方式を取り入れると、適温で食事を提供できるようになり、ご利用者の満足度向上に必ずつながります。苦情も減り、介助する側の負担も軽減するでしょう。食事を召し上がる側、食事を提供する側、双方から喜ばれる調理方式がニュークックチル方式です。
ニュークックチル方式に使用する再加熱機器は、導入に必要な機器のコストの中でも金額最も大きくなります。しかし、ニュークックチル方式の運用に再加熱機器を欠かすことはできません。熱風加熱式、過熱蒸気式、IH・EH加熱式、マイクロ波式など特徴の違うカートの中から、自社施設に適切な再加熱機器を選ぶ必要があります。
そして、ニュークックチル方式に使用する食器は、再加熱機器に適した食器を選択します。通常の食器を利用すると劣化が進みやすく、食器の入れ替え時期が早まる可能性があるためです。再加熱カートには再加熱カート専用の物を、リヒートであればリヒート専用の物が必要です。ニュークックチル方式導入の際には、使用頻度に応じた食器の数を購入しなければなりません。
ニュークックチル方式を新規導入する際、再加熱機器の配置スペースの確保と導入してからの厨房動線を確認する必要があります。また、改装工事中の食事の提供方法に関して事前に打合せをしておかなくてはいけません。
再加熱カートやリヒートの操作方法と注意点について、導入前に導入前に調理員をはじめその他施設職員に説明会を開き、周知しておくと安心です。運用に関する資料の作成など、事前準備に充てる時間が重要となります。
ニュークックチル方式導入に向けての準備を施設側で対応することは、とても骨が折れる作業になります。施設や厨房にかかる負担を軽減するためにも、導入までの検討・導入後の準備等に関しましては、お気軽にナリコマにご相談ください。
ナリコマなら、ニュークックチル方式導入にあたっての不安を解消することができます。
具体的には、以下の内容をサポートいたします。
ほかにも、ナリコマはお客様のご要望に合わせきめ細かく対応し、導入検討段階から導入まで、また導入後におきましても最大限全力でサポートさせていただきます。
ナリコマでは、嚥下力や咀嚼力にあわせた食事形態を4つご用意しています。普通食、ソフト食、ミキサー食、ゼリー食、すべてにおいてニュークックチル方式向けの商品をご提供可能なほか、普通食と介護食の各形態は全て同じ価格でご提供いたします。
ナリコマは、会社理念である「お食事を通じてご高齢者の皆様に生きる喜びを」届けるべく、また厨房における働きやすい労働環境の形成を目指し、お客様のひとつひとつの課題に寄り添い解決してまいります。これからも食を通じて社会へ貢献していきたい。そのために、「持続可能な厨房運営」の構築に邁進してまいります。
実際にニュークックチル方式を導入した100床の特別養護老人ホームにおける事例をご紹介します。
ニュークックチル方式導入前 ※クックサーブ方式で運用 |
ニュークックチル方式導入後 | |
---|---|---|
調理員の1日における配置人数 | 10人 | 5人 |
シフト | 早出3人 日勤4人 遅出3人 |
日勤5人 |
主な勤務時間 | 早出:5:00から13:00 日勤:9:00から18:00 遅出:16:00から20:00 |
日勤:8:00から15:00 |
シフト上の労働時間 | 51.5時間 | 30.5時間 |
早出勤務と遅出勤務 | 必須 | 不要 |
ニュークックチル方式を導入し、早出勤務と遅出勤務の削減を実現しました。およそ21時間の労働時間削減です。
厨房の少人数化が実現した後の調理員の役割をみてみましょう。
業務内容 | 勤務時間 | |
---|---|---|
調理員A | 洗浄(前日の夕食、当日の朝食、当日の昼食) 夕食準備 |
8:00から15:00の6時間 |
調理員B | 調理員Aに同じ | 調理員Aに同じ |
調理員C | 昼食準備(盛り付け、組み膳) 夕食準備 |
調理員Aに同じ |
調理員D | 調理員Cに同じ | 調理員Aに同じ |
調理員E | 調理員Cに同じ | 8:00から15:30の6.5時間 |
5人の調理員がほぼ同じ時間帯で作業に取り組んでいることがわかります。作業が平準化され効率的に作業できるため、少人数でもスムーズな厨房運営が可能になりました。
ニュークックチル方式は、食事のおいしさを保ちながら食数の多い施設にも対応できる画期的な調理方式です。作業効率を大きく高めることにより、厨房の課題である少数精鋭化を実現します。一人一人の調理員にかかる負担を軽減することで、労働力不足が深刻化している少子高齢化社会においても持続可能な厨房運営を実現します。
ご利用者にとっても、食事を提供する厨房スタッフその他施設職員にとっても、すべての方々の幸せと喜びに寄与するニュークックチル方式。近い将来に向けて、施設厨房への導入を考え、そこで過ごす皆さまに、より良い食の喜びを提供してはいかがでしょうか。